‘Talk Too Far’ Vol.1 

Guest : 小川伸一(Sugar Plant)・与田太郎(KIli Kili Villa)

沖野俊太郎自ら、先日発売になったリミックス・アルバム『Too Far』(F-A-R Remixes)に参加していただいたリミキサーの方々にインタビューしてみようじゃないの? 沖野にしか聞けない事もあるんじゃないの? と云う企画の第一弾。

取材・文 沖野俊太郎
2016.08.02 UP
エルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」なんか聴いてるとさぁ、もう声しか入ってないわけよ。ポローンとギター弾いてさ。その声のヴォリューム上げて「これちょっとヤバイなぁ」って。与田

沖野二人にとってさぁ、今良い音って、どういうのが良い音って思う?

与田俺、最新のオールデジタルのダンスミュージックも聴くけど、例えば60年代、Kinksの『Something Else』とか聴いてても良いって思う。で、自分にとってどっちが良いって音の質で言うとわかんないんだよね。

沖野うんわかんないよね。なんかもう世の中的には音数少なくて、一個一個の音の分離がパキンっとこう、まぁそれも終わりつつあるけどでも結構そういう時代が続いてて。空間があって定位がはっきりみたいなものの方が音が良いとされてる時代。たしかにわかるけどね、あとハイレゾとかさぁ。俺はそこに特に執着はなくてカオスとか好きだし。

与田俺も沖野くんと全く同じように思うけど結局さぁ、現場でなくて自分の家のオーディオセットで聴いてる以上他人と共有できないじゃない?だけどDJやってるとクラブはやっぱりみんなと共有しなきゃいけないからそこで響く音の善し悪しはあるんだけど。

沖野音の粒立ちとかね。

与田何年だろう、2008、9年を堺に急激にオンタイムなトラックとそれ以前のアナログでやってたトラックの境目がくっきりしちゃってる。ダンストラックで言えばね。今は間に何か噛まして平均化してかけることもできるんだけど。俺アゲハでDJやってたじゃない?あのアゲハの赤い天井から下がってるデッカいスピーカーだとアナログレコードをWAVにして持ってってかけても、やっぱり最新のBeatportとかでDLしたサウンドには・・

沖野負けるんだ?

与田そう。俺の場合は曲でかけたいからその時代の最新のものと10年前のトラック、ごちゃまぜにかけるからそれやってるとでこぼこしちゃって音質的に難しいなってことになって。でもそうなると最新のものばっかりでDJやるとつまんないんだよね。そういう意味でのクリアネスみたいなものは7、8年前でくっきり分かれたね。で、今はもうそれを気にしないでやる。まぁああいう大きいとこであんまりやらなくなったし。だから60年代のモノラルのロックンロールも今の最先端のレコーディングで捉えたロックも同列にした方がいいとは思ってる。エルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」なんか聴いてるとさぁ、もう声しか入ってないわけよ。ポローンとギター弾いてさ。その声のヴォリューム上げて「これちょっとヤバイなぁ」って。まぁこれはまたサウンド、音がいいって事とまた別の問題なんだろうけど。

小川みんなもうそれぐらいになってるんじゃないの、要は中に入ってる念みたいなものとかグッと来るところで聴けるっていうか。

与田そうね。(笑)今の高校生とかAKBとかExileとかばっか聴いてて、いきなりBeatles聴いたら逆に音いい!って思うんじゃないの?

沖野うんうん。

小川もう系統だって聴いてないから、やっぱり自分に飛び込んでくるやつ って感じにならざるを得ないよね。こんだけ多いと。要は俯瞰して見てるやつってもういないって思うから。

与田もう音楽好きが掘らないんだよね、今。若者ね、難しいんだろう。

いわゆるラーメン屋のジャズ?みたいな記号を取り払った時に飛んでるやつが弾いてる何か、って言う風になったらすごい直結して。小川

小川俺いま、Smithばっかり聴いてるもん。

沖野うそ!?

小川俺が!だからおもしろい。

沖野また戻ってるってこと?

小川また戻ってるとも違って。前はドラムとベース聴いてなかったの、今考えると。(笑)

沖野Smithってドラムとベースもめちゃめちゃ良いじゃん?

小川だけど当時はモリッシーとジョニー・マーしか聴いてない。

沖野まぁそうだよね。

小川で雰囲気で聴いてたの。だけど最近聴くとこのバンドってすごくない?みたいな感じになって。部屋でずっとSmith聴いてて。いや良いんだよ~聴こえ方全然変わっちゃって、みたいのを常に掘り起こしてる。ちょっと前まではスタン・ゲッツばっかり聴いてた。だからジャズも50年代とかが聴けるようになって。スタン・ゲッツって麻薬中毒者でしょ?こいつがギンギンになってアドリブでフレーズを出したっていう事と今俺がギターでグッとやった時と一緒なんだよ。そこはジャズっていうキーワード取り払った時に、いわゆるラーメン屋のジャズ?みたいな記号を取り払った時に飛んでるやつが弾いてる何か、って言う風になったらすごい直結して。超泣けるし、最高だな ってなったんですよね。(笑)だからそういう聴き方。

沖野なるほど。そう、聞きたかったのはさぁ、やっぱシュガープラントの初期ってGalaxie500だったじゃない?『Dry Fruits』くらいからいわゆるSoulってか黒人音楽的な方向にシフトしたじゃない?アレのきっかけってなんだったのかなって。シュガープラント・インタビューになってるけど。(笑)

与田いいんじゃない。

小川いろいろ話しますよ。でもまぁ90年代のころって白人しか聴いてなかった、どう考えても。でギャラクシーってパンクだったの。

沖野・与田うんうん。わかる。

小川だけど先輩はガーっやってんですよ。

沖野先輩って?(笑)

小川年上の人たち。あとサークルの先輩とかパンクをガーッと。でもガーってやってるやつよりピロ~ってやった1音で「おっ!」みたいな。

沖野ふふふ。(笑)

小川静寂の中にある狂気みたいなのとか。こっちじゃね?って。でなんか始めるっていったらギャラクシーはもう来た!って感じで。そう、自分の中でパンクなんですよね。

沖野そうだよね。だからあんまり延々とギターソロを弾くのとか嫌いなタイプだと思ってたの。それがヘタしたらフュージョンまでいっちゃうんじゃない?ぐらいの勢いだったから、そういうのってすごい真逆だと思ってたの、ギャラクシーとかから考えると。その辺、どういう変化だったのかなって。

小川だからあんまり音楽のカテゴリーではなく自分が聴いてグッと来るもんだったりするから、もちろん毎日自分もアップデートされるでしょ?なんだろうね?パーティーに行ってギターだけじゃ表現できない何かがあるよね、とかまぁ音響派みたいのもリアル音響派っていうかそれって例えばアメリカにツアー行った時に

沖野それ何年?

小川95年から3年連続で行ってるんだけどやっぱりだんだん泊まる家でこう、でっかい・・・(笑)まぁそうなんすかって。ピンクフロイドがいっぱいあって。あー、だからこういうフィードバック出てるのね っていう。そこで繋がるんだよね。意味がわかるの。なんかそういうのに全部好きなものにどんどん反応してって、気持ちいいのを追求してったらその頃はそのソウル的なもの、今ももちろん大好きなんだけどその辺が入ってきて。だけど結局好きなものはそんな変わってない。

与田でも一番大きいのはやっぱりパーティーに行ってその影響がモロに出たのが多分『After After Hours』(sugar plant 2ndアルバム/1996)で転換期というかその前に出た『Cage Of The Sun』(EP/1995)はまだギャラクシーとかのアメリカンインディーだよね。

沖野うん、でも『After After Hours』くらいまではインディー、アンビエント、エレクトロニカみたいなとこだったじゃん?だけど『Dry Fruits』からはちゃんと歌ものの、なんていうのかな。邦楽のソウルとは違うけどスタンダードな方向に行ったな って言う印象があったんだよね。

小川そうねぇ。

Sugar Plant - Thunder


与田ちなっちゃんはかなりボサノバも聴いてたし。

沖野あー、ちなっちゃんの嗜好もあったんだな。

与田ちなっちゃんはファンクも大好きだし。ミーターズが1番好きだったくらい。

小川元々はそうだったよね。

沖野黒人の血がちょっと入ってんのかね。(笑)ルックス的にもね。

与田(笑)あんなにカーリーヘアの似合う女の子いないからね。

小川でもホント素直にやってただけ。

与田やっぱ”Life Force”とかが大きいんじゃない?

小川大きいかも。

沖野あのへんだね。

与田あそこはやっぱりディスコ、ソウル、ファンクが根底にあるから。で俺もいつもシュガープラントとパーティー行ってたけど途中で小川くんたちは”Life Force”行くし、俺は自分のパーティー始めてヨーロッパのトランスになるし。そこには分岐点があって。

沖野与田さんヨーロッパだよねぇ。

小川それは一貫してだからね。

与田俺、ブラックはないからね。

小川サッカーも好きだしね、文化ごとでしょ?

与田だからたまには行ってたけど俺は”Life Force”にはハマらなかった。むしろポール・ヴァン・ダイク呼んでみたいな。

沖野やっぱヨーロッパなんだよね。

小川自分は割りと黒人音楽聴いてないうちからそっち入って、なんだろ?でもDeep Houseってなんでもありじゃない?要はビートさえあればジャズも入るし、ソウルも入るし。

与田でも基本黒いじゃん?

沖野そこでさぁ、アレって本物じゃん?そこに対するコンプレックスみたいのがやっぱ出てきちゃうじゃん?自分でやるとなるとさぁ。ちなっちゃんだってそんなふうに歌えるわけでもないし、とか。でもそこはどうでもいいっていうか自分なりのソウル・ミュージックを追求してた?

小川うん、もうそれしかないから。なんだろ?バブルガムブラザーズになっちゃ駄目だし。

沖野・与田(笑)

小川もしやろうとすればね。本気でやろうとしたら(笑)なれないじゃん?って。(笑)

沖野なんないけどね。(笑)でもマーヴィン・ゲイ好きだったら葛藤とか無かったの?

小川うーん、本格派になるとか、ぜんぜんそうじゃないからね。(笑)まんまやる気はなくてグルーヴの上に良いメロディーが乗ってたら最高だなって、まぁそれってマーヴィン・ゲイのことだからね。

沖野ホントそうだね。

与田そこに対する気付きって”Life Force”が大きいんだろうね。

小川やっぱ大きいですね。

沖野”Life Force”ってまだやってるの?

小川まだやってるけど、そのニック・ザ・レコードってのは離脱しちゃったから。もう違うものですけどね。

与田”Life Force”はBlue Noteとかでもやってたからね。

小川だからトランスが延命したよ、実際。同じテンションでココがあったって。

与田要するにもうトランスにイケイケのヤンキーが入り始めてコレはもう違うだろう ってなった時に音楽的に本気で踊れるものがそっち側にあった。

小川そこでまた10年くらい行ってたもんね。

与田俺はまぁヨーロッパ方面だけど。サイバートランスが出てきてヤンキーの音楽になっちゃったから。

沖野浜崎あゆみと変わんないような感じになっちゃったじゃない?

小川・与田そうそうそう。

小川俺達からしてみるとトランスって決まっててトランスしろって言われても「いや、ちょっともっといろいろあるぜ」って。トランスでトランスしろって言われてもトランスじゃないんじゃないの?みたいな感じになって。

与田カタチの問題じゃなかったからね。沖野くんも含めて、90年代半ばの混沌とした時代を知ってるからフォーマットがないとこに俺たち飛び込んでるじゃん?だからこういうもんですよ っていうとこに行ったわけじゃなくて。何があるかわかんないけど行ったら面白かったっていう。そこが起点になってるっていう。

沖野いやぁ、ホントそうだよねー。

小川あとトランス時代も(Mixmaster)Morrisとかいたでしょ?”サックスマスター貞夫”とかふざけてたりしてたけど。わはは(笑)だからこうそっちの広がり?これを全部理解するためにやっぱりスティーヴィー・ワンダーもあるしさ、だからもうなんかソレだよね、結局。

与田あの自由さがすごかったね。やっぱ俺実際イビザ行ってCafe Del Marでそう思ったもん。要するにメインフロアの裏側には必ずコレがある。しかもそこでは音楽的な自由度が高すぎて何でもありなんだけどある種のストーリーを語れないと意味が無いし。

沖野小川くんはイビザには行ってないんだよね?イビザ行く人はやっぱヨーロッパ志向というか。

与田そうだね、音楽的にゴーンとブラックへはいかないっていう。でもゴアに行ってそっちに行ったってのはシュガープラントの面白いとこだね。

小川うーん、ゴアはもう残り火で行ったんだけど・・面白かったね。とりあえず行ってみないとっていう。

― ここで色々話が脱線中・・・。

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